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♈雑貨デザイン・パッケージデザインのプロフェッショナルに聞く。

自分らしさを大切にした行動が運命の場所との出会いを呼ぶ。

自分の絵を使ってプレゼント用のクリアパックやスケジュール帳をつくることができたら…。雑貨が好きな人だったら、きっと一度は想像する夢だろう。雑貨デザイナーとして活躍する糸井 侑さんは、芸術系の大学を卒業して、そんな夢を叶えた先輩の一人です。

 

日本語の五十音、最初の5文字を名前にしたいろは出版株式会社の雑貨ブランド〈AIUEO〉。わくわくするハッピーな気持ちを雑貨として届けるデザイナーとなった糸井 侑さんの軌跡をたどります。

糸井 侑(いとい ゆき) 雑貨デザイナー

母の影響で大好きになった自分の絵で喜んでもらうこと。

わたしのものづくりの原動力は、今も昔も「私の絵でみんなが喜んでくれるのが嬉しいから」。絵を描くことを好きになったきっかけは、フェルトでマスコットをつくったり、毛糸でセーターを編んでくれた手芸の得意な母親の影響が強いと思います。
わたしも小さな頃から絵を描いたり、ものをつくるのが大好きでした。よく母の真似をしていたことを覚えています。
小学校の時、大ヒットゲーム『ポケットモンスター』の初代ポケモン、全151匹を母親が描いてくれたことがあり、クラスですごい話題となました。中には「コピーがほしい」と頼む友人が出てきて驚きました。
そこで「本物のポケモンのシールがあるのに、母の絵が人気になって、絵が描けるって楽しいんだ、みんなが喜んでくれるんだ」と思ったんです。
わたしが特に興味を持ったのは服を描くことで、自分で考えた服をノートに描く方が好きでした。将来の夢はファッションデザイナーになること。でも当時は「服を考える人」というイメージがあるだけで、具体的にどんな職業なのかよくわかりません。わたしにとっては、ただ好きな絵を描き続けることが、ファッションデザイナーへ近づく方法でした。
わたしの夢を知った母は、美術系の教育に力を入れる高校への進学を勧めてくくれました。でも「芸術系の学校は変わった人が多い気がして」そんな単純な理由で受験はしませんでした。

夢を見つめ直して決めた芸術系の大学を目指す努力。

結局、普通科の高校に進学し、体育系のクラブに所属しました。でも、大好きな絵はずっと描き続けていました。
進路を考えはじめた高校2年生の時、ファッション系専門学校のオープンキャンパスの体験授業に参加してみました。そこで「実際にファッションデザイナーになるための勉強を体験してみて、これはちょっと違うかも…」って思ったんです。私がやりたいのは服のデザインではなく、もっと自由に自分の絵を生かしたものづくりなんじゃないかと。そのためには、芸術系の大学で一から勉強した方がいいのではと考え直したんです。
体育会系のクラブを辞めて美術部へ入部。画塾に通いはじめるなど、高校三年になってから大学受験に本気で取り組みました。
わたしは、今まで自己流で絵を描いていたので、芸術系の大学受験に必要なデッサンや平面構成などの実技の知識を全く知らなかったので正直焦りました。そして、なんとか多摩美術大学美術学部のテキスタイル専攻へ入学しました。

自分の好きなものをつくる場所との出会いは運命?

多摩美術大学で4年間を過ごしてみて、芸術系の大学に通う人たちは、自分のやりたいことが明確な人が多かったです。意志が強く、個性的でパワフルで、私自身、授業以外でもたくさんの学びがありました。
テキスタイルの勉強では、糸選びや配色、図柄のデザインなどを学び、自分の描く絵が、布地や織物でも展開できる手応えを感じましたし、1枚の布地が服やバッグ、ブックカバーやインテリアなど、いろいろなものに形を変えることに魅了されました。
自分の想像をさまざまな商品に展開できることを学び、雑貨を中心としたデザイナーを目指したいと思うようになりました。
就職活動では、雑貨のデザインができる企業がなかなか見つからなくて悩んでいたとき、雑貨屋で偶然手に取ったのが〈AIUEO〉の制作したクラフトペーパーでした。
私がやりたいと思っていた自由な発想のものづくりを商品にしている人たちがここにいる。だからどうしてもここに就職したいと思い〈AIUEO〉についての情報を収集しました。
当時〈AIUEO〉は、新卒採用をしていなかったため、進路指導の先生と相談してあれこれ作戦を考えました。
大学でつくった自信作をわかりやすくまとめたポートフォリオ、可愛いイラストレーションを収録した作品集を制作し、わたしの熱意が伝わるように封筒からデザインした社長宛の手紙を同封して応募しました。結果、中途採用枠で見事に内定を獲得できました。
しかも、入社したその日から新商品の開発を担当させていただき、大学時代に経験した〝何でもつくってみよう〟という意識と姿勢が自然体で生かせる自分の居場所を見みつけることができました。

現在の仕事では、商品の企画から完成までを担当。芸術系の大学出身者が多い仲間たちと試作を繰り返しながら「あったらいいな!」や「やってみたい!」を一生懸命形にしています。それは、幼い頃から抱いていた「みんなが喜んでくれるのが嬉しい」という思いをまさに体現できる運命の場所だと思っています。

私も、雑貨のデザイナーになるまで、思考錯誤の繰り返しでした。いろんな壁にぶつかりながら自分が本当にやりたい仕事にたどりつきました。でも、自分の経験の全てが今の仕事の力になっています。芸術系の学校を目指す後輩の皆さんへ贈る言葉として、自分がやりたいことが見つかったら、まず何でも挑戦してみてください。

糸井 侑(いとい ゆき) Profile

1990年生まれ。東京都出身。多摩美術大学美術学部生産デザイン学科テキスタイル専攻卒。ファッションデザイナーを目指していたが、高校、大学を経て雑貨のデザイナーを志し、2013年よりいろは出版株式会社の雑貨ブランド〈AIUEO〉デザイナー。「素直に作る」「プレゼントする気持ちで作る」「発見があること」「たのしく、軽やかに」という4つのキーワードを大切に、多彩なアイテムを制作している。

お問い合わせ http://aiueoshigeru.com

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